スクラン:今鳥と一条のベクトル分析

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 ■ はじめに
 
 やるやるとだけ言っておいて、数ヶ月放っておいた気がする「今鳥と一条」のベクトル分析……。ようやくの発表です。
 
 で、このベクトル分析という奴なのですが、これまた、ある種、私のオリジナルだったりします。
 つまり、昔から認識されていたかもしれないけれど、それだけを抜き出して分析した人はいないっぽいものです。(もしかすると、どこかにいらっしゃるかもしれませんが……)
 ですので……。
 的外れでよく分からないことを言っているだけかもしれませんし、使われている用語を他で使ってもまったく意味が通じない可能性が高いです……。
 
 なお、2008年の9月から10月にかけて、私の過去の日記で、ベクトル分析についての色々な概念が載せられていますが、「あまり参考にしないでください」(笑)
 
 これからやる分析のみを読んでいただければありがたいです。
 (というのも……、あれは理論が構築しきっていない段階で描いたメモに近いため、結構中途半端です……。今回のとニュアンスが違うような箇所もありますし(笑))
 
 
 で、以下は簡単な内容です。
 
 今鳥と一条ののベクトル分析
 
 ■ ポイント1 今鳥と一条の理想
 ■ ポイント2 今鳥と一条のファーストコンタクト
 ■ ポイント3 一条の恋の始まり
 ■ ポイント4 今鳥の恋愛ベクトル
 ■ ポイント5 一条側のギャップの拡大と、今鳥側のベクトルの変化(対一条)
 ■ ポイント6 今鳥側のベクトルの変化(対周防)
 ■ ポイント7 一条側のアプローチと、今鳥側のベクトルの転換(対一条)
 ■ ポイント8 一条側のベクトルの確定。
 ■ ポイント9 一条の理想状態の達成!
 ■ ポイント10 到達地点
 ■ まとめ
 ■ オマケ1〜4
 
 では……相変わらず長いですが……。
 
 

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■ その1 今鳥と一条の理想【#46】【#147】
 
 ベクトル分析は、『方向性』の分析である。
 
 よって、まずはじめに、今鳥の方向性を明確にしておく必要がある。
 今鳥の理想の人は、【#46】のワンシーンに集約される。
 
 海の宿で宿泊したとき、今鳥は美琴の周りを回りながら、このように思っていた。
 
今鳥(D♪)(D♪)(D♪)(D♪)
 
 
 …………。
 
 美琴の胸を偶然を装って触ろうと、回り込むシーンである(笑)
 今鳥は、胸の大きい女性が好みであり、その基準は「D」以上。
 それ以外のキャラには目もくれない傾向がある。
 これが、今鳥の理想である。
 
 一方、一条の理想の人は【#147】で提示される。
 天満にメールで問われ、こう返している。
 
一条「えっ!! き 急に言われても… う〜ん やっぱり ピンチの時に守ってくれる人がいいな♪」
一条「あ…でもね。何でも力で解決する人はちょっと… 強さと一緒に優しさを持っている男の人がいいな」
 
 以上が、今鳥と一条の理想のタイプであり、恋愛をするときの指針となっている。
 
 
 

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■ ポイント2 今鳥と一条のファーストコンタクト
 
 一条と今鳥が最初に出会ったのが【#47】。
 
 夏休み、学校に来ていた今鳥は、「ユッキー」とのデートがパーになった。
 その時の携帯電話での会話が以下。
 
今鳥「は? 彼氏にバレた? 家の前で見張ってる? ヤバイな! ソレ〜〜〜」
今鳥「でも ま 安心しろよ ユッキー んな奴 俺がブットバしてやるからよ!」
今鳥「え? 空手2段? 195cm? ムキムキ?」
今鳥「…幸せになってね ユッキー んじゃ」
 
 この段階の今鳥は、相手が強そうだと見ると、デート相手を諦めている。
 つまり、ポイント1で挙げた一条の理想「ピンチの時に助けてくれる人」とは真逆の存在だと提示されている。
 
 デートがつぶれた今鳥はこうつぶやく。
 
今鳥「なんかな〜〜 セーシュンとかってクセーんだよっ 俺スポーツ打ち込んでる奴キライだなー」(※1)
 
 そのタイミングで現れたのが一条。
 今鳥の頭に膝を入れて、今鳥を悶絶させる。(※2)
 
 その時の今鳥と一条の会話を一部抜粋するとこんな感じ。
 
今鳥「そっちは練習? このクソ熱い中」
一条「はぁ… …というか私 毎日練習です…」
今鳥「毎日!? 信じらんねー!! 俺 遊ばなきゃ生きてけねーモン!」
一条「はぁ… 大会も近いですし……」
今鳥「っつーか 俺的には夏休みは 女のコの一番楽しい時だしさ カレシとかつくんなくていいの?」
一条「え? い いやっのっ そういうのは 私……」
今鳥「アマレスばっかやって楽しい? 今 やんなきゃいけないコトなの? ソレ?」
一条「………… …………」
一条「私… 他のこと全然ダメだし… アマレスだってうまくない…」
一条「けど… 充実してます だから今 楽しいんです……」
 
 そんな会話をした後、一条の練習をあらためて見た今鳥はこうつぶやく。
 
今鳥「………… ふ〜ん…… スポーツね…………」
今鳥「そんなに… 真剣になれるモンなのかね……」
今鳥「オレも何かやってみっかな〜〜」
 
 さっきまでスポーツをキライと言っていた今鳥だが、一条がアマレスに打ち込む姿を見て、いきなり趣旨替えを考える。
 
 つまり、今鳥から一条へは好印象だったと推測される。
 
 この趣旨替え=方向転換は、ベクトル分析では極めて重要。
 それまで進んでいた流れが変わるほどの影響力が、そのイベントにはあったということだから。(普通、キャラは方向転換しない。如何なる物語でも、キャラが方向転換する箇所は注目!)
 
 
 一条と今鳥のファーストコンタクトだが、ポイント1を思い出して欲しい。
 見事に、理想とは逆の二人を付き合わせていないだろうか?
 
 今鳥が嫌うスポーツ少女であり、「D」に満たない胸の一条。
 一条が理想とする「ピンチの時に守ってくれる人」とは真逆の今鳥。(空手二段と聞くだけで諦めている)
 
 だが、この「ギャップ」の存在が、「ベクトル分析」では重要な要素となる。
 なぜなら、エンターテインメントは、「理想と現実のギャップ」を埋めていく方向で進むケースがほとんどだからだ。(逆に言えば、ギャップを見つければ、方向性は推測できる)
 
 以上を踏まえると、【#46】は、今鳥と一条の間で、「スポーツ」と「守ってくれない人」の軸を中心に物語を進めるという作者からの宣言となる。
 (軸は、偶然に合うものではない。対比構造や反復構造でもそうだが、軸が合うということは作者の意図が介在している可能性が高い)
 
 
 余談だが、「ギャップ」の大きさは物語のおもしろさに直結する。
 大きな差があるのにそれが埋められると、読者はそこに感動する。
 今回のファーストコンタクトで、今鳥に「スポーツ打ち込んでいる奴キライ」と言わせることで、作者が一条と今鳥の間に大きな「ギャップ」をつくろうとしているのが判る。
 
 このワンシーンを見るだけでも、このギャップを埋めていくことで、一条と今鳥の方向性(ベクトル)を作ろうとしているのだと推測できる。
 
 ちなみに、「○○が嫌い」は典型的な恋愛物語のギャップの作り方。
 
女の子「あんたなんて大ッキライなんだからね!」
男の子「ああ、オレもだよ! お前の顔なんてみたくねー!」
 
 的なことを言い合う二人が、物語の最後にはツンデレしているというパターンの亜種。(実は、播磨と沢近がこのパターンにそって物語を進行させている)
 
 
(※1)
 スクランのなかで、スポーツに打ち込んでいる女性キャラは少ない。
 にもかかわらず、スポーツが嫌いだと話す今鳥の周りに、美琴(少林寺拳法)、一条(アマレス)、ララ(アマレス)、三原(ボード)など、スポーツ好きばかりを配置しているところにも、作者が「今鳥がスポーツ嫌い」という設定を意識しているらしいことが推察できる。(※3)
 
 
(※2)
 スクランでは、ファーストコンタクトで異性への攻撃が発生すると、深い関係に発展する傾向が強いのかもしれない。これは、八雲と花井、天満と播磨の「ファーストコンタクトでの一本背負い」による対比に通じたものかもしれない。あと、天満による奈良への浮き輪乗り蹴り(?)や、中村と絃子のライフル銃撃とかも……。同性だと、ララと一条。
 
 ただし、これはベクトル分析ではなく、対比構造分析の方。
 
 
(※3)
 今鳥の事を気にかけている存在に三原がいる。
 その三原にも、【♭48】に、ボードに打ち込んでいる描写がある。
 【♭48】で、描かれている三原の初恋の相手は、今鳥に似ている男。
 三原は、その時の恋に懲りて、「だます側になってやる!」と言っているのだが、結局今鳥というだます側の男に再び惚れるだなんて……。
 三原も複雑な乙女心なんだよなあ……。
 
 三原の初登場は、今鳥と一条が一緒の日直をする話【#59】。
 しかも、今鳥は三原を海に誘っている(三原にとってはトラウマだが、同時に恋心を思い出させる言葉でもある)。
 その時に、今鳥は美琴の言葉に反応して、こういう。
 
今鳥「オイーッス! 美コちん!? ナニナニナニ!」
 
 それに応じて、三原には驚いた顔をさせている。(当然、美琴に振り向く今鳥に驚き、同時に美琴に嫉妬したのだろう……。ちなみに、そのコマに入っているのが、三原、今鳥、周防、一条というのが実に素晴らしい……。初期から、ここらの構図を考えていたと推測できる)
 
 以降も三原に関しては、ほとんど今鳥と組み合わせた箇所で登場しているし……。
 やっぱり、相当を考えた上で、スクランは投入されていると思うよ。
 
 

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■ ポイント3 一条の恋の始まり(一条の恋愛ベクトルの発生)
 
 【#50】では、巨大な荷物を運んでほめられた一条が、落ち込みつつ呟いたモノローグがある。
 
一条(女にしとくには…かぁ)
一条(私だって…一応 女の子なんだけどな)
 
 そのタイミングで、今鳥が声をかける。
 
今鳥「どきなっ」
一条「!? い… 今鳥… さん?」
今鳥「そんな気ぃ 張るなよ一条 コイツは俺がやっからよ」
今鳥「女のコの仕事じゃねえ… 少し休んでろ」
一条「………… ………!」
一条「あ……!」
一条「あの… ありがとう 今鳥君!!」
 
 この、一条「あ……!」の所で、顔を赤らめさせる描写が入る。
 おそらく、これが、一条側の恋愛ベクトルの発生ポイント。
 女の子扱いして欲しいと思ったときのタイミングで、女の子扱いしてくれた今鳥に恋心を感じたというわけだ。(※4)
 
 
 【#50】のラスト2ページではこのようなやりとりがある。
 
今鳥「やった──! 金だ金だデートだ!!」
一条「よかったですね!」
今鳥「まったくだよぉ〜〜 今なら 俺 コイツで一条を デートに誘っちゃうよ〜〜〜ん!!」
一条「行きます。」
今鳥「………… ………… え?」
今鳥「俺… なんか 言った?」
一条「あ… あの… デート 初めてなんです!」
一条「よ… よろしくお願いします!」
 
 さっきの好意を受けて、一条の初期ベクトルが完全に確定したという描写である。
 しかし、今鳥にはそんな気はないので、このデートの約束は夏休み中には果たされない。
 
 だが、一条の恋愛スイッチは入ったままなので、夏休み後の登校初日、一条はいつもよりも可愛らしく装って登校する。
 嵯峨野と結城は、一条にこのようにつっこむ。
 
嵯峨野「でも一条変わったね──!!」
一条「え?」
結城「うん! スッゴ〜〜〜〜ク かわいくなった!」
一条「そ…… そ そう? ありがと…」
嵯峨野「で なーにが あったん──? ん? 話してみ?」
一条「え? べ 別に 何もないよ…っ」
 
 そして一条は、クラスの中を見て、こう思う。
 
一条(………………)
一条(まだ来てないんだ…)
一条(…… …バ バカだなぁ… ナニ期待してるんだろ私……)
 
 以降、一条は今鳥に対して恋心を持ち続ける。
 (一条の恋愛ベクトルは、夏休みのデートが叶わなかったにもかかわらず、今鳥に向き続ける)
 
 
(※4)
 オマケ分析。
 【#50】と似たシチュエーションが作中にある。
 【#154】で、沢近と播磨がクリスマスツリーの飾り付けバイトをしている時の会話。
 
 沢近は、どこかの誰かと、このような会話をする。
 
??「いーよ いーよ 俺がやるから」
沢近「え?」
??「それ重いっしょ?」
沢近「あ… ありがとうございます」
 
 でも、この誰かと沢近は結局恋にはならない。
 これは、対比構造分析による、「今鳥−一条」とのイベント比較例。
 「今鳥−一条」間ではベクトルが変化したが、沢近には関係なかったという話。
 
 ベクトルに変更がなかった理由は、対比元となる【#50】の一条と比較すれば簡単。
 沢近はもとから女の子扱いされまくりだし。
 それに、沢近にはすでに播磨という思い人がいる。
 
 

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■ ポイント4 今鳥の恋愛ベクトル
 
 【#59】で、今鳥と一条は日直となり、木材をどこかに運ぶ役を任される。
 
今鳥「う! けっこー 重いぞ? これ! 一人じゃちっと」
一条「はい?」
今鳥「…あのさー やっぱ一人でいけるんでねーのー イチさん?」
一条「え! そ そんな! ム ムリです!」
今鳥「だってオマエ イチさんだろ? 1000万パワーのサ!」
一条「ダメです! ちゃ… ちゃんと… 手伝って下さい! それからイチさんはやめてくださいっ」
 
 これは対比・反復構造分析における、イベントの反復と、それによる対比。
 最初は、荷物運びを手伝ってくれた今鳥に対して、一条はその出来事を再体験しようとしている。(「今鳥さん、私を女の子扱いして手伝ってください……」という思いなのだ)
 
 荷物を運んでいる途中、今鳥と一条はデートの話題を繰り返す。

今鳥「でもさー デートの一回くらいはしたんじゃないの?」
一条「え? あ あの… い 今鳥さんと… や… 約束… を…」
一条(…やっぱり 忘れてるんだ…)
一条「してみたかったな……… デート…」
今鳥「え!? じゃあ俺と…」
今鳥(…………。)
今鳥(デ…… デジャヴュ!? 前にも同じコトがあった気が… だがナゼだ? そもそもコイツはDじゃねえ!! 俺が誘うワケねえじゃねぇか…)
 
 最後の一行に書かれているように今鳥の視線は一条以外を向いている。
 一条は「D」ではないからである。
 
 この後、今鳥は、何とかして一条とのデートを回避しようした──が、失敗。
 【#59】のラストで、一条をデートに誘うことになる。
 
 
 今鳥と一条のデート話が【#61】。
 デート途中に、今鳥は一条からの会話をあしらいながら、こう思う。
 
今鳥(つまんなきゃ これっきりにすんだろ)
 
 今鳥の、恋愛ベクトルは、デートに誘った上でも一条以外を向いている。
 この時点では、明らかに成立不可能と言える……。
 (だが、ギャップという概念を考えると、成立不可能を演出するのは、最終的にはそれをひっくり返す為の伏線でもある……。ロミオとジュリエットを例に出すまでもなく、障害がすごいからこそ、最後の感動があるわけだから)
 
 

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 ■ ポイント5 一条側のギャップの拡大と、今鳥側のベクトルの変化
 
 【#61】では、今鳥がデートの最中に、ハテンコーチョップで天王寺を攻撃する。
 ピンチになるが、一条がドジビロンに変身して、今鳥を救う。
 
 これは、ポイント1で挙げた「一条側」の理想の逆である。
 本来、一条の方が助けてくれる人の存在を願っているのにも関わらず、好きになった相手は助けてあげなければいけない人なのだ。
 これは、作者側がギャップを広げているイベントである。
 
 同種のイベントは、その後も繰り返される。
 
 【#71】で、ララとのファーストコンタクト時に今鳥がフォークで攻撃されるが、それを一条が助ける。(※5)
 また、【♭20】で、ララによってワスバーガーのカウンターに引きずり込まれた時も、一条に助けてもらう……。
 
 一条はそれでもあきれずに今鳥を助け続け、今鳥は一条によって助かり続ける。
 
 だが、その甲斐もあって、今鳥は一条への接し方を修正していく。
 
 
(※5)
 【#71】のララから今鳥への凶器攻撃。
 ファーストコンタクトで何かしらの攻撃をすれば、恋愛を意識する中になる、という法則を踏まえて読むと、一条は、恋愛のライバルが生まれる可能性を「メタ」的に防ごうとしたことになる。
 だが、実際には攻撃は当たっていた。
 その性か、ララと今鳥は、後にデートで勝負服を買う間にまでなる。
 
 まあ、今鳥の方も、ララにバナナ攻撃してるしね……(笑)
 
 というか……。
 スクールランブルが、「ロイヤルランブル」を念頭に置いてネーミングされたらしいことを踏まえると、攻撃を発生させると視線がそちらにむく、という法則は作者がメタな部分で遊んでいる証拠なのかもしれない(笑)
 
 

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■ ポイント6 今鳥側のベクトルの変化(対周防)
 
 一条の意図とはまったく別に、今鳥のベクトルが転換しはじめたと推測される話が【#111】。
 そこで今鳥は、播磨に愚痴る。
 
今鳥「ナンだソレ 他人事だと思いやがって! なんなんだ「美コちゃ──ん」とか叫んでたしよォ……」
 
 花井がサバイバルゲーム編で叫んだ台詞「美コちゃ──ん」が、美琴と花井の関係の強さを示していると悟ったのだろう。
 
 次のバスケ編で、今鳥は、最後のアタックに出る。
 
 「俺スポーツ打ち込んでる奴キライだなー」というベクトルを曲げて、バスケに参加するが、美琴にはまったく相手にされない。(【#127】【#131】)(※5)
 これで、目がまったくないことを自覚したのか、以降、周防へのアプローチは行わなくなる。(つまり、自分の方向性を曲げてまで相手に振り向いてもらえるよう努力しているのに、相手に気がない。それ以上につくす手段をもたないので、諦めたということになる)
 
 
(※5)
 今鳥はスポーツ嫌いの割には、恋愛の為には努力をいとわないキャラだったりする。
 
 今鳥の初登場シーン【#17】。
 彼女のためにかっこいいところを見せようと、ピッチャーをやる。
 だけど、それは報われない。
 
 今鳥と周防の夏休み旅行【#43】。
 周防に水泳を教えるはずが、関係構築に失敗。
 
 また、体育祭でも、ミコちんに良いところを見てもらおうとして立候補するが(【#68】)、バトン受け渡し時に、ローリングスペシャルをかまして失敗する(【#83】)。
 
 これらの事例は、今鳥の物語は「スポーツ」を線に構成されている、という顕著なサインとなっている。
 
 

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■ ポイント7 一条側のアプローチと、今鳥側のベクトルの転換
 
 一条と今鳥の関係で、今鳥側の大きな転機となったのが、【#124】。
 ステージジャックを行う前に、一条は今鳥に声をかける。 
 
一条「…い 今鳥さん…」
今鳥「おっ イチさん」
今鳥「つまんねーよなー 後夜祭なんて」
一条「も もしかしたら 面白くなるかもしれませんよ」
今鳥「?」
一条「見ててくださいね!」
 
 そして、ステージの上で歌う一条を見て、今鳥はこう呟く。
 
今鳥「へぇ… …あんな表情もするんだな 一条って…」
 
 ステージを見る今鳥の元に、デートの約束をした女の子が来るが、今鳥はこう返す。
 
女の子「ゴメーン 待った〜? さあ どこ 行こっか?」
今鳥「…… ワリィ… 何か… そういう気分じゃなくなっちった…… ゴメンな」
 
 デート相手がいるにもかかわらず、今鳥は一条のステージを見ることを選んだ。
 ずっと遊び人だった今鳥側のベクトルの方向転換をストレートに表現している。
 
 

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■ ポイント8 一条側のベクトルの確定。
 
 今鳥が、「おふ会」で、一条の部屋に来た話──【#144】。
 
 分析などという野暮なことを行わなくても、【#144】を見れば、一条の心が改めてさだまったことが分かる。 
 
 

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■ ポイント9 一条の理想状態の達成!
 
 今鳥と一条とのベクトルがお互いを向いた上で、大きなイベントが用意される。
 それが【#177】。
 夜道を歩いている一条とショーンとの会話に今鳥が割って入る。
 
ショーン「たまらなく不安だったんだよ 英国とは何もかもが違う日本に来ることが」
一条「そ そうなんですか……」
ショーン「でも なぜか 君になら 何でも話せる気がする──」
ショーン「どうだい? これからも一緒に──」
今鳥「ハ〜イ! 私でよければ!!」
一条「今鳥さん!」
今鳥「よお イチさん」
一条「あ あの こ これはそーゆーのじゃなくて!!」
ショーン「何だ 君は? もしかして カレンの知り合いか?」
今鳥「やいテメェ! ずいぶん好き勝手してくれるじゃねーかよ! 俺は俺以上のイケメンは認めねぇ!! 勝負しろい!」
 
 だけど、今鳥は簡単に負ける……。
 
ショーン「さあ 問題は片づいた ギオンに向かおうよ カレン」
一条「わ 私は…… 私は今鳥さんと一緒に居ます…」
ショーン「What?」 
 
一条「あ ありがとうございます」
今鳥「はぁ? 俺ぁアイツが気にくわなかっただけだよ」
今鳥「しかも勝手にブッ飛ばされただけだぜ? カッコワリー」
一条「で でも い 今鳥さんが来てくれて わ 私すごくうれしかったです」
 
 そう!
 このシーンは、ポイント1で挙げた一条の理想【#147】。
 
一条「えっ!! き 急に言われても… う〜ん やっぱり ピンチの時に守ってくれる人がいいな♪」
一条「あ…でもね。何でも力で解決する人はちょっと… 強さと一緒に優しさを持っている男の人がいいな」
 
 この方向性を見事になぞっている。
 
 また、ポイント2で挙げた今鳥の初期状態。

今鳥「え? 空手2段? 195cm? ムキムキ?」
今鳥「…幸せになってね ユッキー んじゃ」
 
 からのベクトルの転換が示されている。
 (とりあえず逃げることはしない選択を選んでいる)
 
 【#177】は、初期に設定されていたベクトルの方向が修正され、一条と今鳥の間にあった大きなギャップが埋められつつある、極めて重要な話である。
 
 

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■ ポイント10 到達地点。
 
 今鳥と一条の到達地点の一つとなっているのが【#231】。
 
 鈴木に誘われ、断り切れない一条を救ったのが今鳥。
 
鈴木「大丈夫だって テスト休みでしょ?」
鈴木「今日くらい パッとはじけようぜ!」
鈴木「ね」
今鳥「わォ 偶然っっ」
一条「!!」
今鳥「イチさんじゃねーの♪」
一条「今鳥さん!! 何でここに!?」
今鳥「何でって よく来るモン」
今鳥「そんなコトよか いーの?」
一条「え? 何がです!?」
今鳥「さっきから 補導員っぽいのがウロウロしてるよーん」
一条「え…?」
今鳥「高校生は 帰らねーとな 電車のあるウチにね♪」
 
 鈴木は、恐らく、昔の今鳥のベクトルがそのまま進んだらなっていたであろう姿である。(ナンパなキャラ)
 だけど、そのキャラから一条を守った。
 昔の自分との決別であり、成長の現れであり、それだけ一条を大切に思っているという証拠である。
 
 そして、このイベントは、一条の理想──。
 
一条「えっ!! き 急に言われても… う〜ん やっぱり ピンチの時に守ってくれる人がいいな♪」
 
 の達成であり、同時に【#61】の初デートで一条に救われたイベントとの対比となっている。
 (前回の対ショーンでは、一条を助けようとしたが、助けきれた訳ではなく、一条が今鳥を選んだだけ。故に、今回の対鈴木で、ようやく達成したと言える)
 
 
 また、【#231】のラストシーンも実に奥が深い。
 
一条「ごめんなさい… ごめんなさい ごめんなさい」
今鳥「…………」
今鳥「……ったく しょーがねーなァ〜〜 ホント カテェっつーか」
今鳥「目ェつむってみ イチさん」
一条「え……」
一条「ええ!?」
今鳥「いーから ホレ」
一条「そ そんな ダ…ダメです!! そんなツモリじゃ…!」
 
 という会話を経て、今鳥は一条にドジビロンピンクのマスクを被せる。(※6)
 
 一見、ギャグに見えるが、今鳥と一条のキーワード──ドジビロンである。
 今鳥と一条のファーストデートで、ドジビロンピンクは(【#61】)スクリーンの中から、こういう。
 
 「あなたを大切に思う人は──いつもそばにいるわ!」。
 
 【#61】と比較した上でドジビロンマスクを被せた意味を考えると──、「俺にとってのドジビロンピンクはオマエなんだよ」あるいは「ドジビロンピンクの言葉を思い出せ。鈴木なんかよりも近くにいる奴がいるだろう?」という風にとれる。
 
 ギャグでごまかされているが、ある種、今鳥の一条への降伏宣言であり、初期状態からのギャップを乗り越えて、ベクトルが到達した地点となっている。
 
 
 以上、ベクトル分析をふまえると、今鳥は、
 
 1.「D」への渇望
 2.「Dでない」一条との出会い
 3.「D」(美琴)を諦める
 4.初期状態からの変化(身を挺してショーンから一条を守る)
 5.過去の今鳥ならなっていたであろう姿を否定(鈴木から一条を守る)
 
 というラインで成長してきたことが分かる。
 
 また、一条の理想も。
 
 1.「助けて欲しいのに助けなければいけない人への恋」
 2.「そんな人が、頑張って助けようとしてくれた」
 3.「本当にピンチの時に助けてくれた」
 
 という形で、成立してきたことが分かる。
 
 
 
(※6)
 ドジビロンマスクが、真正面から被されているということは、描かれていないけど、一条は目をつむってしばらく待っていたと思われる……。キスを期待したんだろうなあ……。
 あ……やばい……。一条、可愛すぎる……。 
 
 

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■ まとめ
 
 キャラには、それぞれ方向(目標や理想に向かう努力)があり、その方向が転換する箇所には大きなイベントや、心理の推移がある。
 なら、初期状態の方向性(ベクトル)と、その方向性が転換した箇所、及びその到達状況を押さえるだけで、そのキャラにとって重要なものが理解でき、方向の最終地点──そのキャラがたどり着く地点もわかるのではないか、というのがベクトル分析である。
 
 
 今回やったことは単純で、「今鳥と一条」の組み合わせで
 
 A.キャラの初期状態、および目標(理想の最終状態)は何か?
 B.キャラが方向転換をした地点に何があったのか?
  (あるいは、その方向を強化、あるいは弱化させたイベントになにがあったのか?)
 C.現在、どの地点にいるのか?
 
 という三点を確実に押さえようとしただけ。
 
 だが、それだけのことで、「今鳥と一条」の物語の核を押さえることができたように思う。(数学のベクトルと同じで、原点と方向性と到達地点が分かれば、『矢印』が書ける、のと同じ原理だったりする……)
 
 
(※7)
 分析法であると同時に、創作法でもある……(笑)
 というか……、私の分析法って、基本的に私が使っている創作法を裏返しているだけ。
 
 このベクトル分析も、最終状態に至る流れをいかに作るか、その為には何を仕込んでおくか、という創作法をひっくり返して簡単にしたもの。
 
 
 ゆえに、ベクトル分析では、どういうシグナルが出ていれば、どういう方向に「向かうか」を推察できる。
 また、どの箇所で方向転換したからこそ、物語はどこに「向かわないか」を推察できる。
 
 ベクトル分析は、対比構造分析や反復構造分析ほど確実な「メッセージ技術」ではないけれど、キャラの向かう場所や、物語の流れを読み解く手段になりうる。(正直に言うと、もとより「方向性」の分析だから、不安定な要素が多いんだけどね……)
 
 このベクトル分析においても、重要なのは、キーワードの存在。
 キーワードは、作者側から提示されたベクトルのマイルストーンとなりうる。
 
 今回の分析例で言うなら、「守ってくれる」「守ってくれない」というキーワードが認識できなければ、「今鳥と一条」のベクトルが、どういう経緯を辿ってきたかがわからない(笑)
 
 だけど、「守ってくれる」「守ってくれない」という箇所を押さえるだけで、今鳥と一条が辿ってきた流れを把握できる。(ここらは、反復構造と似ている。というかベクトルと「反復」構造は被っている部分が多い……。反復は、ベクトルのマイルストーンであることがおおいから……)
 
 
 言われてみれば、簡単な分析法でしょう?
 
 

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■ オマケ ベクトルの足し算
 
 数学のベクトルは足し算が出来る。
 ベクトルABとベクトルCDを足せば、その中間に新しいベクトルが生まれる。
 
 それと同じで、漫画や小説などの創作内でも、二人のキャラをぶつければ、その二人の間に新しいベクトルが生まれる。(※8)
 
 今回の今鳥と一条が、その見事な例。
 
 それまでの話、今鳥と一条の二人には接触がなかった。
 だけど、作者は【#46】で二人を合わせた。
 
 今鳥に「スポーツ嫌い」、一条に「スポーツ少女」という方向性がある以上──あるいは今鳥が「守ってくれない男」であり、一条に「守ってくれる男が理想という方向性がある以上──、二人のベクトルを足し算すると、その中間線(共有しているキーワード)「スポーツ」──あるいは「守ってくれる」──を軸に二人の物語が進むベクトルが生まれる。
 
 まったく関係なかったはずの二つのものに、わざわざ同じ土俵で比較しうる「軸」を与えたということは、そこの作者の意思が確認できる。
 以上を踏まえると、作者は【#46】の時点で、既に、「今鳥」と「一条」の物語は、このキーワードを中心にストーリーを進めていこうと考えていたと推測できる。(その証拠に、【#46】の会話には、今鳥と一条のキーワードがあからさまに込められている)
 
 
(※8)
 簡単にまとめると、無関係な筈の二つのものに「軸」を与えると、その「軸」を中心に二人の物語は進むということ。
 対比構造や反復構造でもそうなんだけど、軸が合わさるということは、作者の意図があると判断できる。
 偶然に軸が揃うことなんて滅多にないんだから……。
 
 軸が合わされて提示されている以上、作者はその軸の延長に到達地点を置き、そこに至る方向性で物語を用意していたと考えられる。(※9)
  
(※9)
 これとは逆に、同じベクトル(軸)を持つ二人がいれば、その二人はいつかは出会うというパターンもある。
 バトル漫画とかだとこの現象はおきやすく、例えば同じスピード勝負をする二人のキャラがいれば、いつかはその二人で対決が起きる(笑)
 
 

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■ オマケ2 恋愛連鎖からの関係構図分析。
 
 天満 ← 播磨 ← 沢近、八雲、姉ヶ崎、絃子。
 八雲 ← 花井 ← 結城、高野、稲葉、周防。
 周防 ← 今鳥 ← 三原、ララ、一条、??。
 
 以上は、スクランのメイン部分の思い人関係。
 このように並べて、縦に見ると面白い。
 
 沢近−結城−三原:それぞれ、思い人と相似傾向。
 (沢近と播磨、結城と花井、三原と今鳥、ともにそれぞれある種の相似)
 
 八雲−高野−ララ:笑顔を見せる、がキーワード。
 (八雲は文化祭の時に美緒に語る。高野は天満の誕生日で。ララはワスバーガーの話で)
 
 姉ヶ崎−稲葉−一条:積極的。
 (男性陣にその気がないのに、それでもアタックする存在)
 
 絃子−周防−??:家族的。
 (今鳥の所は??。今鳥の設定は、姉が結婚したのを機に軟派キャラになったらしいことを踏まえると、ここがないお陰で、今鳥の「D」設定に繋がっていると考えることもできる。大きな胸は母性=家族の象徴)
 
 
 でも……、まあ、ここら辺の「構図の並べ方による考察」は、並べ方の時点でどうとでもなるので注意……(笑)
 
 たとえば……。
 
 天満 ← 播磨 ← 沢近、八雲、姉ヶ崎、絃子。
 八雲 ← 花井 ← 結城、周防、稲葉、高野。
 周防 ← 今鳥 ← 三原、??、一条、ララ。
 
 と並べて、
 
 八雲−周防−??:家族的サポート。
 絃子−高野−ララ:恋心を秘めて出さない。
 
 とすることも出来るだろうし。(※10)
 
 
(※10)
 ララは、今鳥のことが好きだったんだと思う。
 今鳥とのデート時に買った勝負服の胸には、「バナナマーク」があるし。
 (バナナが胸に、というのは今鳥とのファーストコンタクトの思い出。もし、ララがおそらく最初で最後のデートだからという理由で、今鳥と出会ったときのことを思い出し、「胸にバナナ」マークを選んだのだとしたら……。なんという悲しい恋心……)
 
 

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■ オマケ 3 今鳥の最終形態予想──!
 
 あんまり自信はないけど……。
 今鳥くん、最後の最後には、ちょっとムキムキになってそう……。
 
 この予想は……、今鳥と一条の軸の一つにスポーツがあるにもかかわらず、今鳥が一条のためにスポーツで頑張った話が一つもないということから導き出してみた。(周防に対してはあれだけスポーツでがんばったんだから、作者の中には、今鳥の恋愛はスポーツが軸、という認識はあるはず……。【♭47】で今鳥の裸を見せているのもあやしい……。腕相撲の話で、腕まくりして筋肉のない上腕二頭筋を見せているのもあやしい……)
 
 『いちご100%』の真中みたいに、ラスト、ちょっとがっしりした今鳥が登場すると思っているんだけど……、当たるかどうかは微妙だよなー(笑)
 
 

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■ オマケ4 今鳥の理想状態達成の暗示?
 
 【#188】の冬木の写真工作話。
 
 一条の胸を修正した写真を、天満は今鳥に見せる。

天満「見て見て 今鳥君! どーよ これ!!」
今鳥「あん?」
今鳥「………… おおお〜〜!!」
天満「カレリンの将来の姿だよ〜〜」
今鳥「………… ………… ピキーン」
一条「そ…な… 変な目で見ないで下さい〜〜!!」
 
 今鳥は、もしかすると将来一条がDになる可能性を思ったのかも知れない。
 
 この伏線は、【#144】にもあり、一条の母親のブラのカップが大きいことが書かれている。
 将来、一条の胸がおっきくなる暗示である。
 会話を抜き出すと──。
 
今鳥「ってか イチさん なんで こんなおっきなの持ってんの?」
一条「そっ それは 母のですっ──!!」
今鳥「えー イチさんの母ちゃんって ナイスバディ!?」
 
 以上より、将来的には、一条も「D」を達成する可能性があると示唆されている。
 
 

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 しかし……、なげえ……。
 原稿用紙56枚分……。テキストにして28KBか……。
 
 ちょこちょこ作っていた分析なんだけど、使った合計時間を考えると……、怖いなー……(笑)
 
 ま、いいや……。今回ベクトル分析をまとめたお陰で、結構成長できた気がするから。