スクラン:絃子ファーストキス考察もどき『338マイルは遠すぎる』

 なんとなく、『338マイルは遠すぎる』と名付けてやってみた絃子考察。
 
 

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■ その1 反復構造分析による絃子の性格考察
 
 あまり意識されていないかもしれないが、絃子は播磨関連の恋愛問題に直面すると、パニックを起こす傾向がある。
 このことは、「反復構造」によって描写されている。(※1)
 絃子のパニクる性格が「反復」している箇所を抜き出すと……。
 
 八雲が部屋に来たとき、何をすることもなく、ポテチの袋を5袋、ビールを4缶空けてしまった。(【#92】)
 
 播磨の「俺を… 俺を男にしてくれ!!」の台詞を盗み聞きしたときも、播磨がドアを開けたことに反応できず、コップを耳に当てたまま、コクコクと頷くだけだった。(【#94】)
 
 茶道部カフェで、姉ヶ崎が播磨に抱きついている姿から、視線を逸らしている。(【#118】)
 
 このように、絃子は、播磨関連の緊急時には対処が出来ず、固まる特徴がある。
 
 それを踏まえ、【#73】を見てみる。
 参考として、【#73】の絃子と笹倉の会話を抜粋する。
 
笹倉「あら? 何してるんです 刑部先生? 勝手に入って…」
絃子「ん── いや…ちょっと絵を ね」
笹倉「いえ そうじゃなくて… 今朝は職員会議でしょう?」
絃子「そ 緊急のね」
絃子「だから 緊急避難してきた あ──っ 難しすぎる これ よく描けるな──」
笹倉「………… それ私の絵…」
絃子「…イヤ なんかメンド臭そうなんでね」
笹倉「?」
 
 この会話は、【#72】のラスト──保健室で寝ている播磨に、姉ヶ崎が抱きついた事件を受けて、緊急職員会議が招集されたことを踏まえてのものである。
 加藤先生が「由々しき事態です! 生徒が教師を襲うなどと!」と言っている以上、緊急職員会議を招集した時点では、播磨が姉ヶ崎を襲ったという報告がなされているようだ。
 
 それを受けて、絃子は、「なんかメンド臭そうなんでね」と言って、美術室に逃げ込んだ。そして、笹倉の絵を勝手に描いている。
 
 『絃子は「俺は俺のモンだ」と言っている播磨が好き』という仮説からこの台詞の意味を推測すると、
 
 1.播磨が姉ヶ崎を襲った事実を知りたくない可能性。
 2.職員が播磨をけなすのを聞きたくない可能性。
 3.播磨と従姉弟だと他の職員に説明するのが面倒くさい可能性。
 
 などが考えられる。
 
 1や2は、当然考えられること。
 
 また、3は、【#170】の、
 
絃子「学校の皆には 面倒なんで言っていないんだよ」
 
 から、推測可能である。
 
 だが、始めに反復構造を用いて浮かび上がらせたように、
 
 4.播磨のことでパニックになる姿を他の職員に見せたくない可能性。
 
 も考えられるのではないだろうか。
 
 【#73】の冒頭で、絃子が美術室で絵を描いていたのは、緊急会議に出席しても、播磨の恋愛面を題材にされると上手く対処できない自分が分かっていたため、それがイヤで逃げ出してきたというカワイイ性格の側面が出たのではないか、と推察できる。
 
 事実、笹倉に声をかけられた最初の台詞が、
 
絃子「ん── いや…ちょっと絵を ね」
 
 と、どこか定まっていない答えになっている。
 おそらく、この時点ではまだパニクってる状況だったのだろう。
 
 
(※1)
 実は……。
 ……私の中では、「対比構造」と「反復構造」は、別物になっていたりする……。
 確かに両方とも、二つのものを比べて分析するから、初期は一緒にしていたんだけど……。
 最近では、「対比」と「反復」を別にして説明した方が分かりやすいのでは、と思うようになってきた……。(だから、前回の絃子分析では「対比構造だけ」で、今回のその1は「反復構造だけ」で分析していたりする……)
 ちなみに、「対比構造分析」は二つの「他」の比較であり、AとBを比較する。同軸を持つAとBを比較し、同じなら「相似」。違うなら「対比」。
 「反復構造分析」は二つの「自」の時間差比較であり、おなじAの、A1時点の状態とA2時点の状態を比較する。A1とA2の状態が同じなら「反復」。違うなら「変化」。
 ……分析法も色々と変わるってことで許して……。
 
 

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■ その2 「絃子の性格考察」を踏まえた播磨のファーストキス考察(【#170】)
 
 その1で示したように、絃子は緊急時の対処に弱い。
 
 だが、そんな性格にも拘わらず、【#170】では、播磨のファーストキスを奪ったことが描かれている。
 会話を抜き出すと、こんな感じ。
 
笹倉「拳児君のファーストキス奪ったのも 先輩ですよねぇ」(※2)
絃子「だからどーした もう時効だろうが」
 
 だが、その1で示したように、播磨のことで固まるクセがある絃子が、播磨にキスなんてできるものだろうか?
 
 それでもなおかつキスが成立しているならという前提で、二つの可能性を考えてみた。
 
 まず、パニクった絃子が、それでも頑張った可能性。
 昂ぶる気持ちとパニクりそうになる頭を理性で押さえつけ、絃子から行ったキス──。
 あるいは逆に、完全にパニクった絃子が、それでもなんとか成功させたキス──。
 ともにありえる話で、両方とも否定する材料がない。
 
 次に、実は絃子が完全に固まっているところに、キスをしてきたのは播磨という可能性。
 実は、この可能性も消せない。
 「奪った」というのは、ファーストキスを含めた「初物」に連鎖する表現である。
 播磨からキスを仕掛けたとしても、年上である絃子が「奪った」という表現は可能だ。
 これもあり得る話で、否定する材料がない。
 
 以上、それぞれの可能性は否定できないが、以下にせよ、絃子のパニクる性格を考えると、播磨と絃子のキスは、「いわくある」キスだったのではないかと推測される。
 
 

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■ その3 続・ファーストキス考察(【#170】)
 
 【#170】での、ファーストキス問題を更に深く掘り下げてみる。
 該当する台詞を抜き出すと──。
 
天満「むにゃ〜 ところでぇ…… センセェって 播磨君のこと どー思ってるんです〜?」
笹倉「拳児君のファーストキス奪ったのも 先輩ですよねぇ」(※2)
絃子「だからどーした もう時効だろうが」
播磨「ヨケーなコト言うなああ!!」
 
 この短い会話から、分析・推測すると、
 
 a.どうやら笹倉は、絃子が播磨のことを好きだと思っているらしい。
 b.絃子は、ファーストキスのことを「時効」と言っているだけで、天満の問いには明確には答えていない。
 
 aより。
 前回の考察で示したように、笹倉はサラと相似で、絃子のサポート役的な存在である。その笹倉が、「センセェって 播磨君のこと どー思ってるんです〜?」の天満の問いに、このような解答をするということは、笹倉の認識では、絃子は播磨のことを好きだと確信しているということである。
 
 bより。
 絃子は、笹倉の発言には反応しているが、天満の問いには明確には答えていない。何も思っていないのならその通りにかえせば良いにもかかわらず、このような応対をするということは、知られたくない何かがあると推測できる。
 
 この二つのポイントをまとめると、絃子は播磨のことを今でも思い続けているらしい。
 
 この推測を補強するのが、【#170】に登場する、絃子と笹倉のラストシーン。(※2)
 
笹倉「ねぇねぇ 先輩! こんなトコにチョコが! 誰のかしら?」
絃子「おー ちょうど甘いモンが食いたかったんだよ ありがたくいただこう」
 
 絃子はそれに手を伸ばし、天満から播磨にチョコが渡るのを邪魔している……。
 絃子の目がかかれていない描写を合わせて考えると、これは明らかに意図的である。
 
 単に普通に好きなだけでなく、その想いは相当深刻だということが描かれている。
 
 
(※2)
 オマケに、この【#170】は、おそらく絃子の歯ブラシを使う播磨の姿が書かれている。ファーストキス話が出た話で、間接キスまでこなしているとは……。
 なかなかすごい回である……。
 
 
(※3)
 笹倉は、どうも、絃子の「播磨への思い」を支援する傾向があるらしい。
 【#170】にはこういう台詞がある。
 
笹倉「でも 拳児君も欲張りね こんなに美人のお姉さんがいるのに まだ他の子が欲しいの〜?」
 
 前回の絃子分析でもやったが、サラが八雲を支援するのと同じく、笹倉は絃子と播磨をつなげようとする傾向があるようだ。天満のチョコを、わざわざ絃子に差し出すあたりも、意図が感じられるし……。
 
 

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■ その4 ファーストキスの時期は何時か?
 
 さらに【#170】に題材を取り、「時効」の範囲を掘り下げてみる。
 
 時効と言うからには昔の話だと思われる。
 前回の考察を引き継いで、絃子は「俺は俺のモンだ」といきがっている播磨を好きだと仮定して話をすすめる。
 
 まさか絃子も、小学生の播磨を好きになった訳はないだろうし、また播磨も小学生からワルだったという描写もない。(播磨は、「中学時代」名の通ったワルだった(【#73】)が……)
 
 よって、「俺は俺のモンだ」という播磨が好き、という仮定の上なら、この分析は簡単。
 
 絃子が好きなのは中学時代の播磨。
 また、絃子が播磨を好きになったのもその間。
 
 よって、時効とは言っているが、ここ四年の間にキスをしていると推測される。
 
 

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■ その5 さらに踏み込んだ絃子と播磨のファーストキス考察
 
 【#170】にある、「ヨケーなコト言うなああ!!」という播磨の台詞は重要である。
 ここから細かいニュアンスをくみ取ると、以下のような推測が出来る。
 
 イ.どうやら、ちゃんとしたキスだったらしい。
 ロ.お互いに、ちゃんとファーストキスだったと認識されているらしい。
 ハ.「ヨケーなコト」になるようなキスらしい。
 ニ.絃子が「奪った」ことを強調していない。
 
 イ、より。
 どうやら、軽く唇が当たったとか、偶然触れたとか言うレベルのものではないらしい。
 そのレベルのものなら、「アレは キスなんかじゃねーよ!!」という否定の仕方になるからだ。
 「ヨケーなコト言うなああ!!」と播磨が叫び、キスであることを否定しないということは、客観的にもかなりしっかりしたキスであり、しかも播磨もちゃんとしたキスをしたという自覚があるということになる。
 
 ロ、より。
 播磨は「ヨケーなコト言うなああ!!」というだけで、ファーストキスだという指摘も否定していない。
 笹倉がファーストキスだと知っていることから、キスした当時から播磨自身、ファーストキスだったという認識があり、絃子もそのことを知ったということになる。
 足して、ファーストキスだけは味が違うということもない。
 「なんでファーストキスだって知ってるんだよォ!!」という台詞になっていない以上、今のがファーストキスだったという告白は、播磨の自己申告だったのだろう。
 
 ハ.より。
 「ヨケーなコト」は、今回の場合、天満への恋の障害となる話という意味だと推測される。
 だが、これは意外に深い意味を持つ。
 軽い気楽なキスなら、知られたところで大した障害にならないからだ。
 ということは、播磨と絃子のキスは、恋愛の障害になるほどの意味を持つ深いキスだったと推測される。
 
 二.より。
 もし、そのファーストキスが絃子から一方的にしかけて強引に奪ったものなら、「あれは オメーがしてきたんじゃんか!」と返しただろう。
 だが、播磨は「ヨケーなコト」としか言えなかった。
 これは、播磨の中にも、自ら望んだキス、あるいは自ら納得したキスとして認めている心理が内包されている。
 
 

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■ その6 考察のまとめ
 
 しっかりとファーストキスを奪い、奪われた関係であることを認識しつつ、それでも現在の播磨は絃子の家に住んでいる。
 それができるからこそ「時効」と言っているのだろうが、逆に言えば、お互いに時効ではなかった時期──あるいは一瞬は、確実に存在したと推測される
 
 しかも、それはわずか四年以内の話なのだ。
 
 

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■ オマケ あるいは 核心
 
 分析してる途中で、ふと気付いた一文字の意味がやばい……。
 
 【#170】の笹倉の台詞には、こうある。
 
笹倉「拳児君のファーストキス奪ったのも 先輩ですよねぇ」
 
 「ファーストキス奪ったのも」……。
 
 ……「も」?
 
 ……えっと……。
 播磨から他に何かを奪ったってことになるんだけど……。
 
 ちょっと考えてみよう……。
 
 とりあえず、播磨の心を奪ったってことにして……。
 
笹倉「(拳児君の初恋相手は先輩でしたし)拳児君のファーストキス奪ったのも 先輩ですよねぇ」
 
 これは、意外だけど、あり得る……。
 播磨の初恋が天満、という描写はない。(……この発言には自信なし……)
 
 ということは、天満の前に好きになった誰かはいたということ。
 ファーストキスの相手が絃子なのだから、播磨の初恋の相手が絃子だった可能性は極めて高い。
 
 で、もう一つの可能性。
 でも、まあ、こちらを書くのは野暮か……。
 こっちの可能性は、【特別長編】の播磨の台詞で否定されるし……。(暇な人は、私の思考をトレースした上で、【特別長編】の播磨の台詞を追ってみて……。あ……でも、とんでもない可能性もあるのか……。……考えないようにしよう……)
 
 
 で……、これを踏まえて【#06】を読み直すと、こうある。
 
播磨「しかし どうやって伝えるか… 片想いなんてしたコトねーから サッパリだぜ」
 
 ……播磨側からの「片想い」はない。
 なら逆に、「片想いを受け止めた」ことがあったとか?
 
 あるいは「両想い」があったとか……?
 
 

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 以上、第二次超姉考察(?)、終了!
 
 っていうか……。
 与えられた二題の組みあわせと、その話にある短い情報から、24時間内でこんな楽しい考察(? いや、多分違っ……)をひねり出せるのは、我ながら壊れているなのかもです……(笑)
 
 正直な話、今回は、半分くらいはお遊びでやりました……。
 でも、残りの半分はしっかりと分析してますからね!(笑)
 
 ちなみに、途中使った分析技術の一つ──細かい言葉のニュアンスから情報をずるずる引っ張り出してくるのは、得意なものの一つだったりします……。
 というか、本職の分析(創作)ジャンル──本格ミステリで時々つかうんですよね……。
 本格ミステリでは、地の文には嘘がないという前提ですから、ニュアンスを分析して裏切られることはあんまりありませんし。また、犯人以外はできるだけ嘘をつかないようにと、微妙なニュアンスから会話を成立させることがおおいですしね……。
 そもそも、本格ミステリには叙述トリックが多いですから、細かい言葉の使い方の差異をかぎ取るのは、読み手や書き手の必須技術なのかもですが……。
 
 いや、まあ、ずばりと言ってしまえば、ケメルマンの『9マイルは遠すぎる』なんですけどね……。
 
 っていうか、なんか、やばいですね……。
 考察し終わってみると、妙に絃子が可愛く(あるいは色っぽく)かんじます……(笑)
 
 

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 あと、ちょっと独り言。
 コミック19巻が出てちょっとしたら、「今鳥と一条」の分析をアップする予定です。
 あそこに、こんどやる「『今鳥と一条』のベクトル分析」の重要な回がありますので……。(ベクトル分析は、対比構造分析とは違う、また別の分析法です。相変わらず、勝手に考えたオリジナルの分析法なのですが……。っていうか、いまさらながらにして気付いたのですが、創作に生かすためにと色々な作品分析しはじめたのに、どうしてそこから生まれてくるのは、新しい創作じゃなくて新しい分析法ばっかりなのでしょうか……(笑) しかも、生まれてきた分析法(裏返せば創作法)のどれも、やばいことに、本職の本格ミステリには役に立たないものばかりなんですよね……。いや、これは、本当に、どういうことなんでしょう……(笑))
 
 
 もう一つ、オマケに独り言。
 小説と新刊コミックの分析は、特別な何かがない限り、おそらくしないでしょう。
 私がやるのは、基本的に、毎週のマガジンの考察と、ときどき現実逃避気味にやる既刊コミックの考察だけです。
 ノって遊ぶのが好きだからといって、創作時間や睡眠時間を削ってまで、新しい分析に手を出したりはしないつもりです。(逆に言えば、アップしている分析に関しては、別に無理にやった訳じゃないということです。もとから、毎日、一、二時間くらいの研究・分析枠(読書枠)を取ってありますから、その枠内で対処します。まあ、集中しすぎたときは、余裕で時間をオーバーさせるわけですが……(笑))
 
 お昼に書くブログに関しても、インターネット枠での対処ですから、問題ありません。
 
 そこらはきちんと自己管理していますので、ご安心を。
 
 っていうかー!
 また7時間経ってる……。
 ……いつのまにか、空が白いよ……。
 
 ……先に言っておきますね……。
 もう、ネタを与えられてからの即興演奏挑戦はしません……。
 
 

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