ベクトルとは? その5

 では、「ベクトル」には「大きさ」(強さ)という指標を持つのだろうか?(ベクトルには、大きさと向きを有する量、という意味もある。今までは、向きを話題にしてきたので、今度は大きさの方)
 
 先に答えを書いてしまえば、「統一的な指標は存在しないが、作品内で比較できる大きさ(強さ)は存在」する。
 
 つまり……。ある作品のベクトルの大きさと、別の作品のベクトルの大きさとは比較できないが、同じ作品の二つのベクトルならその大小を設定することができる。(ただし、ある程度……)
 
 たとえば、バトルもの。
 基本的に、ベクトルが大きい方が勝つし、勝った方が大きい。これは、最終的には最強を倒すというジャンルなのだから読者にとってもわかりやすい。
 
 たとえば、恋愛もの。
 主人公が選んだ人への恋愛ベクトル(もしくは、選ばれた人が主人公を思う恋愛ベクトル)が一番大きい。これも、唯一の恋人を探すというジャンルなのだから読者にとってはわかりやすい。
 
 では、このベクトルの大きさを、「作品途中」の段階で(最終決着がついていない段階で)、読者に伝える方法にはどういうものがあるだろうか?(何度もいっているが、このブログは創作側の視点。分析側の視点からすれば、ベクトルの大きさなんて、作品を見てもわかるわけないじゃん。落ちがどうなるかなんて、作者のさじ加減だし……となっておしまいの可能性が多い)
 
 作品の途中で、ベクトルの大きさ(初期段階からの成長の度合い)を表現する手法はある。
 
 それが、反復と変化を使った描写法。(ようやく、ベクトルと対比・反復をしっかりつなぐ話までこれたよ……)
 
 同じ軸を設定し、そこからどれくらい変わったのか(また逆に、変わっていないのか)を繰り返し続ければ、読者にはその「差(ギャップ)」が、成長の度合い(つまり、初期段階から変換したベクトルの大きさ)として読み取ってもらえる。
 
 
 八雲の笑顔を軸にした成長、というものであらわせばこんな感じになる。(雑だけど……)
 
 【1】 初期段階の提示
 
 ベクトルの基点となる描写。
 このように、ベクトルを意識して対比・反復表現を使う場合、最初の基点が明示される。
 
 
 【2】 変化の兆候、ならびに理想状態を提示する笑顔の絵
 
 ベクトル方向性の提示。
 最初の基点から、どの方向に向かうのかが示される。
 八雲は、表情をやわらかくするほうに向かう。
 
 
 【3】 理想の提示
 
 ベクトルの、最終反復先(変化先)の提示。
 八雲は、いつも好きな人に笑顔を見せる、というのがゴールだと提示される。
 
 
 【4】 理想の一時的達成
 
 途中経過。
 最初、笑えていなかった八雲が、ここにきて梁間に向けて笑顔を見せれるようになる。
 だが、まだ一瞬だけだし、いつも笑顔を見せているわけではない。
 また、天満のように、思いっきりの笑顔を見せれているわけでもない。
 
 
 【5】 理想の恒久的達成?
 → これができればまさしく八雲END。これから描かれるのか、それとも理想で終わるかは不明。(※1)
 もし描かれれば、この5と、1や4との笑顔の差(ギャップ)が、ベクトルのもつ大きさを示す一つの座標になってくる。
 
 このように、反復・変化(同一軸だからこそできる描写法)を利用すれば、その差(ギャップ)で大きさを表現できる。(このギャップは、他に笑えていない軸があったほうが、八雲の変化がわかりやすくなる。それが、花井に対してのみ良い笑顔を向ける高野と、いまだにうまく笑顔を表現できない烏丸)
 
 今は、まだ一瞬、かすかな笑顔を播磨に向けただけだけれど、ずっと笑顔を向けられているようになるのが最終的な反復先だろうし、そこに向かうベクトルが示されているのが読者にも読み取れるようになる。
 
 …………。
 しかし、反復・変化によるギャップの例示よりも、後半はベクトルの方向性についての話になっている……。
 
 まあ、仕方ない。
 とりあえずは、これで。
 
 つぎも、ギャップの話に関してを予定。
 その前に、スクランの発売日か。
 
 
 (※1)
 いや、予想しろ、と言われれば、これから描かれる方にかけるんだけどさ。
 これだけ、対比・反復を使って八雲周りの構図がしっかり組み立てられているということは、それを描写したいがために組み立てていると考えざるを得ない。だからこそ、最後の最後には八雲がくる、という予想だし。
 ちなみに、沢近周りの構図は、八雲ほどしっかり組み立てられていない。なので、作者がより力をいれて設定しているのは、八雲側だと推測できる。