ベクトルとは? その4
物語の構造を考えるとき、ベクトルには、正方向のベクトルと、逆方向のベクトルがあることに気づく。(実際には、そんな単純なものではないのだけれど、話をわかりやすくするために、流れを後押しするベクトル=正方向、流れを邪魔するベクトル=逆方向として考える)
たとえば、主人公が、サッカーで高校の頂点に立つために努力する物語だとする。
新入部員が即戦力がいた。→試合に勝つ確率が増える。→正方向のベクトル
先輩部員が他校の生徒と喧嘩をした。→試合が行えない。→逆方向のベクトル(※1)
という感じに、物語の流れを推進させるベクトルが正、物語の流れを邪魔するベクトルが逆、と言うわけだ。
ただし、創作論的にいえば、正方向のベクトルがよくて、逆方向のベクトルが悪いというわけではない。
考えてもらえればわかるけれど、正方向のベクトルだけで物語を作れば、これほどドラマのない笑い話はない(笑)
今回例にあげたサッカーで語るなら、まず最初に入部して、とんとん拍子に試合に勝って、そして楽して高校選手権などで優勝。
さて、こんなお話が面白い?
多分、面白くないと思う。
というわけで、正方向へのベクトルは確かに物語の背骨になるのだけれど、逆方向へのベクトルがしっかり機能しないとまったく面白くない物語になる。
逆方向のベクトルは読者をはらはらさせたり、不安にさせたり、驚かせたりと、エンターテイメントの基本となる。
その上で、それらの逆方向のベクトルを超えて、一歩、また一歩と進んだり、時には大きな成長を示す正方向のベクトルを提示して、読者に感動を与えるのがまさにエンターテイメント。
次々に困難を与えることこそがエンターテイメントというようなことをいっている作家もいる。(ちなみに、発言者はモダンホラーの二台巨頭の一人として知られたディーン・R・クーンツ。正式な発言はちょっと違うけれど)
この逆方向のベクトルを乗り越えたときの感動、というのはものすごいカタルシスを得られるので(そりゃあ、抑圧された状態からの開放、という疑似体験を得ているのだから当然!)、多くの物語で採用される。
出てくる敵の強さが次々とインフレーションを起こしたり、パニックホラーなんかだとどんどん状況が悪化していったり……(笑)
まあ、あの手この手で主人公たちを、最終目的から遠ざけるベクトルが投入される。
では、このベクトルの強さはどうやって測ることができるのだろう?
というあたりで時間切れ。
月曜日はお休みだから、また火曜から。
(※1)
もっとも、こんな単純な話ではない……。
新入部員が即戦力だとしても、その新入部員が問題児だったりして、実際には正と見せかけて逆の場合もある。
また、先輩部員が他校の生徒と喧嘩したあとで、いろいろあって先輩部員と主人公たちの絆が深まってチームとして結束し、最終的には正方向へのベクトルになる場合もあるし。
というか、はっきりいっちまえば、逆方向へのベクトルなんてものは、最終的に正方向に向かわせる演出のひとつなんだけどね。時々例外があるけど……。