「ベクトル」とは? その3
「ベクトル」の話の続き。
「ベクトル」があるおかげで、「反復元」をおくだけで、読者は自然に「反復先」を連想する。
これは、物語上、作者が用意している「反復先」と違って、別個に読者の中だけに存在しているものである。
だが、一見無意味に思えるこの「読者の中だけの反復先」と「そこに向かうベクトル」は、創作的において、ものすごく重要なポイントとなる。
というか、「読者の中に生まれる仮想の反復先」と「そこに向かうベクトル」は、できるだけ作者も把握しておかなければならない。
なぜ?
理由はいくつかあるけれど、主に、読者の期待を維持する手法と、読者を驚愕させる手法、という二点効果的な利用ができると分析できる。
まずは、
【1】 読者の期待を維持する手法。
読者が勝手に生み出した仮想の反復先は、読者が作品を読みつづけるモチベーションになる。
たとえば、あるキャラのことを応援している読者がいたとする。
その時、かなりの確率で、読者はそのキャラが幸せになる最終話を想像して読むことだろう。(※1)
その、仮想の反復先に向かう「ベクトル」が続いている間は、読者はとても気持ちのよい時間を過ごせるし、その仮想の反復先にたどり着く最終話になれば、読者はすばらしい漫画に出合ったと感動するだろう。
これが、「読者の中に生まれた反復先」ならびに「そこに向かうベクトル」を把握しておかなければならない理由のひとつ。
つぎに、
【2】 読者を驚愕させる手法。
「予想を裏切る展開」とか、「驚愕の真相」とか、「すごいこんな物語考えていなかった!」とか、「叙述トリックかよ!」とかいわれて評価されるのは、この読者の中に生まれた「反復先」に比較して与えられるもの。
つまり、「ベクトル」によって導かれた読者の中に生まれた「仮想の反復先」は、あくまで虚像のものであるということだ。
ゆえに、そこに、隙が生まれる。(※2)
その隙を突いて、読者の考えなかった展開を行えば、「予想を裏切る展開」や「驚愕の真相」などの「サプライズ」が行えるというわけ。
これが、「読者の中に生まれた反復先」ならびに「そこに向かうベクトル」を把握しておかなければならない理由のひとつ。
もっとさがせば、この二つの理由にもあるんだろうけれど……。
まあ、この二つがわかっていれば、かなりフォローできると思う。
というわけで、今日は時間……。
多分、次は、正方向へのベクトルと、逆方向へのベクトルの話。
追記。
というか……。「その2」を読み直したら、今回の「その3」で、「正」と「逆」の話をするつもりだったんね……。
順番的に、失敗したなあ……。
(※1)
具体的に、スクランで話をすると、沢近ファンの場合は、沢近と播磨がくっつくENDを期待して読むだろう。八雲ファンの場合は、八雲と播磨がくっつくENDを期待して読むだろう。もし、それに沿わない描写(反復元)があれば、ファンは本を読むことすらやめてしまうかもしれない。例の22Pで、大量離脱が発生したのもそういうわけ。
(※2)
本当にサプライズをやる場合は、生まれている隙を見つけてつくんじゃなくて、上手なダミー反復元を用意しておいて、読者の中に生まれる「仮想の反復先」ならびに「そこに向かうベクトル」を誘導しておき、一気にはしごをはずすのがベスト(笑)
というか、ミステリの中でも、サプライズジャンルばっかり書く人は、いかにだますかに根性いれまくっているからねえ……。作品読んだら、反復元にダミーがありまくりよ……。